外で売れて、内で売れない|中国の自動車が映す二つの経済
輸出+75%と国内-21%が同じ産業に同居しています。産業の勝利か、圧力の排出か。前号の中国経済の見立てを、自動車という断面で確かめます。
内憂外患。(『徳川禁令考』に用例のある四字熟語より)
内に憂いがあり、外に患いがある。国の困難を言い表す古い言葉です。今日の中国の自動車産業はこれを半分だけ裏返した姿をしています。外は患いどころか快進撃で、憂いは内側にあります。前号で触れた「同じ工場から出た車が、外では売れて、内では売れていない」という対比を今日は産業の現場まで降りて確かめたいと思います。
今日のトピック
まず外側です。中国の自動車輸出は6月に単月として初めて100万台を超えました。103万7,000台で前年同月比75.1%の増加です[1]。金額ベースでも+69.6%[2]。上半期の累計は509万6,000台と前年同期比65.3%増です[3]。中身も変わり始めました。6月の輸出では新エネルギー車(NEV)が52万3,000台と前年同月比2.6倍に伸び、初めて内燃機関車(51万4,000台)を上回ったのです[1]。安い車を数で送る輸出からEV・PHEV軸の輸出へ重心が移っています。これが数字の示す構図です。
次に内側です。同じ上半期、中国国内の新車販売は992万1,000台で前年同期比21.1%減でした[3]。4月の乗用車小売は前年比-21.5%[4]。6月の小売統計でも自動車類の販売額は-16.1%です[5]。外の+65%と内の-21%。前号で記した対比は産業レベルで見るとさらに鮮明です。
数字の補足をしておきます。冒頭の+75.1%は業界団体(中国汽車工業協会)ベースの台数です[1]。税関(海関総署)ベースで同じ6月を見ると台数は+72.4%、金額は+69.6%で台数の伸びが金額をわずかに上回ります[2]。値段を下げながら量を出している可能性を示す並びです。差は小さく、これだけで断定はできません。この点はあとで戻ります。
強気派は何を見ているか
前向きな立場は輸出の中身の高度化を評価します。輸出の主役がNEVへ交代したことは労働集約型の安値輸出から付加価値の高い製品への転換を意味するとみるのです[1]。行き先も広がりました。2026年1〜4月の乗用車輸出ではブラジルが最大の仕向け先で前年比3.3倍、ロシア・英国が続き、イタリアなど欧州各国も伸びています[6]。東南アジアでも存在感は急速に増しており、5月の中国EV輸出額は東南アジア向けで過去最高を更新しました[7]。単一市場への依存ではなく面で広がる輸出だという評価です。
企業レベルでも同じ構図が見えます。最大手のBYDは6月に国内販売が落ち込む一方で海外販売は前年比ほぼ2倍に伸びたと報じられています[8]。国内の不振を海外で補って余りあるというのが強気側の見立てです。
弱気派はなぜ懐疑的なのか
慎重な立場は、この輸出の勢いを「強さ」ではなく「圧力の逃げ場」とみます。
第一に内需の弱さそのものです。上半期の国内販売-21.1%は消費全体の弱さと地続きで、前号で見た融資の細りとも重なります[3]。象徴的なのはNEVの国内浸透率です。4月に61.4%と初めて6割を超えました[4]。ただしこれはNEVが伸びたからではありません。同月のNEV小売自体は前年比で減り続け、ガソリン車の落ち込みがそれを上回ったために比率だけが上がったのです。分子の成長ではなく分母の縮小が押し上げた6割です[4]。
第二に値段の壊れ方です。国内では激しい値下げ競争が続き当局が是正に動いています。2026年6月に「非理性的な競争」の疑いがある自動車メーカーが当局に呼び出され注意喚起を受けました[9]。「内巻」(過当競争)という言葉が当局や業界団体の文書に載り、業界団体は前年から是正の提案を重ねています[9]。先ほどの「台数の伸びが金額を上回る」並びは国内の値付けが輸出にもにじみ出ている可能性を示します。
第三に輸入国側の反応です。EUは2024年10月に中国製EVへ最大45.3%の関税を決めた前例があります[10]。いまは中国製PHEVにも近く相殺関税を課す意向で加盟国側の判断待ちと報じられています(6月中旬時点)[11]。背景にはEV関税のあと中国勢がPHEVへ軸足を移したことがあります。ドイツではBYDの新車登録の約7割をPHEVが占めるまでになりました[11]。輸出という逃げ場が永続するとは限りません。持続性は相手国の政治に左右されるのです。
私の意見
前号で私は中国経済の「対外加速・対内収縮」という構図の持続性を決めるのは中国の国内政策よりも海外側の反応のほうだと書きました。自動車はその見立てのいちばん分かりやすい実地試験になっていると考えています。