2026.07.22

静かに超えた100兆元|中国の政府債務を数字で確かめる

節目の数字は警報ではなく目盛りです。100兆元の中身(中央と地方、新規と置き換え)と、低金利のまま積み上がる構図の筋道を、日本の読者の物差しで整理します。

静かに超えた100兆元|中国の政府債務を数字で確かめる
Photo by Freeman Zhou on Unsplash

借り手にも、貸し手にもなるな。(シェイクスピア『ハムレット』第1幕第3場、ポローニアスの台詞より)

ポローニアスの処世訓に従う国家は現代にはほぼ存在しません。国家は借りることで道路を作り・年金を払い・危機をしのぎます。問題は借りるか借りないかではなく金利の水準とどこまで借りられるかです。今週はそこで中国が超えた節目を取り上げます。

今日のトピック

中国人民銀行が毎月公表する金融統計に今年、目を引く一行があります。5月末の政府債券残高が100.6兆元で前年同月比15.1%増[1]。政府債券の残高が100兆元の大台に乗ったのは初めてです。6月末にはさらに101.36兆元まで増えました(同14.2%増)[1]

この「政府債券」が何を指すかは注意が要ります。中央政府の国債だけではありません。財政部の予算報告によれば、2025年末時点の内訳は以下の通りです。国債41.23兆元、地方政府債務54.82兆元(一般債務17.51兆元・専項債務37.31兆元)で合計96.05兆元でした[2]。つまり100兆元は中央と地方の合計であり、中央より地方のほうが大きいのです。なお財政部の債務残高と人民銀行の債券残高は口径がわずかに異なる別系列で、冒頭の100.6兆元・101.36兆元は人民銀行の系列です。その人民銀行の系列で見ると、残高は2025年末の94.92兆元からこの半年で6.44兆元の純増です。人民銀行が公表した上半期の政府債券の純発行額とも一致しています[1]

増発は不測の事態ではなく予算の設計どおりです。2026年の予算では財政赤字率を4%前後・赤字規模を5.89兆元とし、別枠で超長期特別国債1.3兆元・地方の専項債4.4兆元の発行が計画されています[3]。地方の「隠れ債務」を明示の政府債券へ置き換える作業も進行中で、残高の伸びには見えなかった債務が見えるようになった分も含まれます[2]

物差しを当てます。中国の2025年の名目GDPは140.19兆元でした[4]。6月末の政府債券残高はその約72%に相当します(筆者計算)。同じ物差しを日本に当てると、国と地方の長期債務残高でみて対GDP比194%です(財務省)。IMFの一般政府ベースでは204%で、普通国債残高だけでも1,145兆円あります(いずれも2026年度末見込み)[5]。米国の連邦政府債務は7月15日時点で39兆4,886億ドルになります[6]。水準だけを見れば中国は主要な債務国よりまだかなり低い位置にあります。

「まだ借りられる」とみる立場

この節目を落ち着いて眺める理由はいくつかあります。第一に水準です。中央政府の国債だけで見れば2025年末時点で残高41.23兆元で、当時のGDP比は3割弱にすぎません[2][4]。第二に金利です。中国の10年国債利回りは足元で1.7%台と歴史的な低水準です。政府は低いコストで長期の資金を調達できています[7]。市場が消化を拒む気配は少なくとも価格には出ていません。

格付け会社の判断もいまのところ動いていません。S&Pは2025年8月に中国のソブリン格付けを「A+」・見通し安定で据え置きました。純政府債務の年間の増加ペースは今後鈍るという判断です。GDP比7%超(2025年推計)から6%未満へ低下すると見ています[8]。ムーディーズは2026年4月、見通しを「ネガティブ」から「安定的」へ引き上げたと報じられています[8]。隠れ債務の置き換えについても、債務を消す作業ではなく借金を明示の債券に借り換えて統計に載せる作業です。財政部は置き換え後の平均利息コストが2.5ポイント以上下がったと報告しています[2]

速度を警戒する立場

慎重な立場が見るのは水準ではなく速度です。残高は前年比15%前後で伸びています[1]。経済全体の伸び(実質5%成長)[4]を大きく上回る速さで分子が膨らみ続ければ対GDP比が上がっていくのは算術です。フィッチは2026年6月に格付け「A」を据え置きました。一般政府債務が2028年までにGDP比80%程度に達するとの見通しを示しました。「A」格の国の中央値が58.6%なので、それを大きく上回る点を指摘したと報じられています[8]

もう一つの論点はどこまでを「政府の債務」と数えるかです。IMFは中国の地方政府傘下で資金調達を担ってきた事業体(融資平台)の債務まで含めるよう長年指摘してきました[9]。この広い「拡張債務」の定義で見ると、債務の姿は明示の政府債券だけを数えた場合より大きくなります。100兆元という数字はその意味では債務の全体像ではなく明示された部分の目盛りです。

私の意見

この節目自体に新しい情報はほとんどないというのが出発点です。100兆元は10進法の区切りにすぎず増発は年初の予算で示された枠組みの中にあります[3]。それでも私がこの数字を取り上げるのは水準ではなく構成の変化に情報があると考えるからです。

続きは、私の意見と数字です。

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