Fedが9月に利上げ|ドットは年内もう1回を示した
FRBが2023年以来の利上げに踏み切りました。ドットは年内もう1回を示しますが、18人の点はそろっていません。声明から消えた「供給ショック」の一節と、決まっていない次の一手を確かめます。
物価の上昇は、それ自体が次の上昇を呼ぶ面がある。より安定し、生産性の高い経済に戻るには、物価はこれからも上がるという人々の見込みを断ち切らなければならない。(ポール・ボルカー FRB議長、1979年10月17日の議会合同経済委員会での証言より)
1979年のボルカー議長は、石油危機のさなかに、「物価はこれからも上がる」という人々の予想が、さらに物価を押し上げることを恐れました。47年後の9月16日、FRBは再び、エネルギー高のさなかに利上げを選びました。物価高の一因は、中東の戦争で値上がりしたエネルギーです。
米雇用統計の見方では、雇用の初報がどう書き換わるかを整理しました。9月の決定は、その雇用が崩れていないことを前提にしています。今日は9月の声明と経済見通しから、何が決まり、何がまだ決まっていないかを確かめます。
今日のトピック
米連邦公開市場委員会(FOMC)は9月16日、政策金利の誘導目標を0.25%幅引き上げ、年3.75〜4.00%にしました[1]。決定は12対0の全会一致です[1]。前回の引き上げは2023年7月で、それ以来の利上げです[4]。
同時に公表された経済見通し(SEP)では、2026年末の政策金利の中央値が4.1%でした[2]。参加者一人ひとりの点(ドット)は8分の1%刻みで示されます。18人のうち12人が4.125%、4人が4.375%、2人が3.875%に点を置きました[2]。引き上げ後の誘導目標の中心は3.875%です。0.25%ずつの利上げなら、12人はあと1回分、4人はあと2回分に相当する水準で、2人は今と同じ水準を見込んでいることになります。
声明の文言も変わりました。7月の声明は、物価が高い理由の一部をエネルギーなど一部の部門の「供給ショック」で説明していました[3]。9月の声明からはこの一節が消え、「今日の決定は2%目標へのより速い復帰を支える」という文に置き換わりました[1]。7月の採決は9対3で、3人が0.25%幅の利上げを主張していました[3]。
見通しの数字も動いています。6月と比べ、2026年末の政策金利の中央値は3.8%から4.1%へ、2027年末は3.6%から4.1%へ上がりました[2]。失業率の見通しは4.3%から4.1%へ下がり、コアPCE物価は3.3%から3.4%へ上がりました[2]。
雇用は利上げを支える側にあります。8月の雇用者数は16万2,000人増えて市場の予想を上回り、失業率は4.1%のままでした[5]。
「年内もう1回は既定路線だ」と考える側
この側の根拠は、声明とSEPそのものにあります。物価の見通しが上がり、失業率の見通しは下がりました[2]。7月に3人が主張した利上げを、9月は12人全員が支持しました[1][3]。2026年末に4.125%以上へ点を置いた参加者は18人中16人です[2]。
市場もこの側に寄っているという見方があります。クリーブランド連銀のハマック総裁は9月25日、長期金利の上昇には成長の強さと政府債務への懸念に加えて、FRBの追加の利上げの見込みが効いていると述べました[6]。総裁は、投資家がさらなる利上げを見込んで取引しているとも述べています[6]。
議長も労働市場への副作用を小さく見ています。ウォーシュ議長は会見で、目標を達成するために労働市場を傷つける必要があるとは考えていないと述べました[7]。
「次の一手はまだ決まっていない」と考える側
反対側が挙げるのは、SEPが示す来年以降の金利の見通しと物価の中身です。
第一に、SEPが示す来年以降の金利の見通しです。同じSEPでは、政策金利の中央値は2028年末に3.9%、2029年末に3.6%と、利上げの後に下がる見通しです[2]。ただし中央値は2027年末も4.1%で、その先は少しずつ下がる見通しです。2026年末についても、18人中4人はさらに高い4.375%、2人は今と同じ水準の3.875%に点を置いています[2]。
第二に物価の中身です。9月の声明は供給ショックの説明を外しましたが、供給ショックが消えたとは書いていません[1]。2026年のPCE物価(3.7%)がコアPCE(3.4%)を上回る見通しは、食料・エネルギーが物価を押し上げる前提と解釈できます[2]。これは私の推測で、SEPは内訳を示していません。
第三に外部の評価です。CNNによると、ゴールドマン・サックスのエコノミストは顧客向けの文書で、景気は過熱しておらず需要も過大ではないとして、利上げの根拠は「弱い」としました[7]。オックスフォード・エコノミクスの米国担当チーフエコノミストは「FRBはエネルギー価格を左右できない」と述べ、高い金利が労働市場を弱め始める危険を挙げています[7]。
私の意見
私は、年内もう1回の利上げは「決まった予定」ではなく「参加者の見通しの中央値」と考えるのがよいと思います。
SEPの点は参加者一人ひとりの予想で、委員会の約束ではありません。18人のうち12人が4.125%に点を置いたことは重いのですが、4.375%の4人と3.875%の2人もいます[2]。SEPは参加者それぞれの見通しで、委員会の決定ではありません。次の一手はまだ決まっていません。
そのうえでいちばん気になったのは、声明から「供給ショック」の文言が消えたことです[1][3]。7月には物価高の一部を供給ショックで説明していましたが、9月にはその説明をやめました。委員会は、物価高を供給ショックで説明する見方を弱めたと私は考えます。今回挙げた雇用の数字からは、急な悪化は見えません。8月の雇用者数は16万2,000人増え、失業率は4.1%のままでした[5]。SEPも2026年末の失業率の中央値を4.1%と置いています[2]。声明から供給ショックへの言及を削り、雇用の悪化も見込まない。この組み合わせでは、利上げを休む理由が少なくなります。
日本への影響を考えるうえでは、日米の金利差が大事です。日本銀行は9月18日に政策金利を1.0%程度から1.25%程度へ引き上げることを決め、24日から適用しました[8][9]。米国と日本がそろって0.25%幅の利上げをしたので、日米の短期金利の差は変わっていません。米国がもう1回上げれば、その分だけ日本の利上げによる円の支えが弱まると考えています(推測)。
これは私の解釈であり当事者の説明ではありません。次に確かめられるのはこの先の材料です。a) 10月に公表される9月会合の議事要旨で、供給ショックの文言を外した理由がどう説明されるか。b) 次の会合までに出る雇用統計で、失業率がSEPの見通し(10〜12月期の平均4.1%)を上回る方向に動くか。c) 長い期間の国債利回りが、追加の利上げの見込みとともに上がり続けるか[6]。
議事要旨で文言を外した理由が「物価が落ち着く見込みが薄れた」以外にあると分かった場合、あるいは失業率がはっきり上がりSEPの前提が崩れた場合は、この見方を改めます。雇用統計の初報は後から大きく書き換わることがあります。米雇用統計の見方で整理したとおり、1回の数字で判断を変えず、改定を含めて見ることにします。
注目の数字
18人中12人
2026年末の政策金利に4.125%の点を置いた参加者の数です[2]。0.25%ずつの利上げなら、引き上げ後の水準からあと1回分に相当します。中央値4.1%は、この12人が示した水準です。残る6人のうち4人は、0.25%ずつならあと2回分に相当する水準を、2人は今と同じ水準を見込んでいます。年内もう1回は多数の見通しであって、全員の約束ではありません。
今日はここまでにします。
出てきた言葉
経済見通し(SEP): FOMCの参加者が四半期ごとに出す、成長率・失業率・物価・政策金利の見通し。政策金利は参加者一人ひとりの点(ドット)で示され、中央値が注目される。委員会としての約束ではない。
供給ショック: 戦争や災害などでモノの供給が細り、値段が上がること。需要の強さから来る物価高と違い、金利を上げても直接は抑えにくいとされる。
出典
[1] 連邦準備制度理事会が2026年9月16日、政策金利の誘導目標を0.25%幅引き上げて3.75〜4.00%とし、12対0で決めたと公表している(「Federal Reserve issues FOMC statement」)。
[2] 連邦準備制度理事会が2026年9月16日に公表した経済見通し(「Summary of Economic Projections」表1・図2)。
[3] 連邦準備制度理事会が2026年7月29日、政策金利を3.50〜3.75%で据え置き、3人が0.25%幅の利上げを主張したと公表している(「Federal Reserve issues FOMC statement」)。
[4] 連邦準備制度理事会の金利変更の一覧(「Open Market Operations」)。
[5] FTが2026年9月4日、8月の米雇用者数が16万2,000人増えて予想を上回り、失業率は4.1%だったと報じている(記事「US economy smashes forecast with 162,000 jobs added in August」)。
[6] Bloombergが2026年9月25日、クリーブランド連銀のハマック総裁が長期金利の上昇要因として成長の強さ・政府債務への懸念・追加利上げの見込みを挙げたと報じている。
[7] CNNが2026年9月17日、ウォーシュ議長の会見での発言と、ゴールドマン・サックスおよびオックスフォード・エコノミクスのエコノミストの見方を報じている(記事「The Fed was bullied into hiking rates. Now it hopes it didn't royally screw up」)。
[8] 日本銀行が2026年9月18日、無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導水準を1.25%程度に引き上げ、翌営業日(9月24日)から適用すると公表している(「当面の金融政策運営について」)。
[9] 日本銀行が2026年7月31日、無担保コールレート(オーバーナイト物)を1.0%程度で推移するよう促すと公表している(「当面の金融政策運営について」)。
(まくら) Paul A. Volcker, Statement before the Joint Economic Committee, October 17, 1979(FRASER所蔵). 原文: "Inflation feeds in part on itself, so part of the job of returning to a more stable and more productive economy must be to break the grip of inflationary expectations."
お断り
本記事は公開情報にもとづく解説であり、特定の金融商品の売買を推奨する投資助言ではありません。金額・利回り・見通しなどの数値は各公表時点および報道時点のものであり、その後変わっている可能性があります。「私の意見」の節は、断定的な予測や売買の推奨ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
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