原油は落ちたのに、利上げ観測だけが残った|FOMC前夜
原油は100ドル超えから一時87ドル台へ急反落。それでも市場は「利上げ」への賭けを降りていません。木曜午前3時の結果発表の前に、この織り込みが何の値付けなのかを整理しました。
連邦準備制度は、パーティーがまさに盛り上がってきたところで、パンチボウルを片付けさせるお目付け役の立場にある。(FRB議長ウィリアム・マクチェズニー・マーティンが1955年の講演で引いた言葉)
中央銀行の役割を語るときに引かれる言葉です。70年余りたったいまも変わりません[16]。宴が熱いうちに酒を下げる。それが利上げです。いまのFedは逆の間合いに立たされています。原油は勝手に冷え始めました。それでも市場は「酒が下げられる」への賭けを下ろしません。このねじれが何の値付けなのか。木曜未明の結果発表の前に確かめます。
今日のトピック
米連邦公開市場委員会(FOMC)が米国時間の28日と29日に開かれます。結果は日本時間30日木曜の午前3時に出ます[1]。エコノミストの本線は据え置きです。FactSetの調査では政策金利3.50〜3.75%の維持が大勢です。実現すれば5会合連続になります[2]。
金利先物の市場は別の値付けをしてきました。先物から算出される7月利上げの確率はこの半月で大きく波打っています。No.010を書いた7月10日時点では35%前後でした。13日には4割台後半に触れます[3]。15日にはいったん10.7%まで縮みました。ところが22日には34.7%へと1週間で3倍を超えます[3]。24日の報道では38%に達していました[2]。その燃料は原油です。ブレント原油が23日に1バレル100ドルを超えたために、エネルギー再燃のインフレ懸念が意識されました[2]。
その前提が週明けに崩れます。米国とイランの攻撃応酬は27日時点で3夜連続止まっています。米国のウォルツ国連大使はトランプ大統領が交渉に「余地」を与えていると説明しています[4]。ブレントは27日に約8%下げて一時87ドル台をつけました。23日の100ドル超からは2営業日で約13%下げた計算になります。それでも1か月前と比べればなお2割高い水準です[5]。では利上げの織り込みはどうか。27日の実測は、集計と取得時点により31.5%~37.6%です[6]。24日の38%からの返しは最大でも6ポイント余りにとどまります。10.7%から膨らんだ約27ポイントの大半が残ったままです。
利上げありとみる側の見え方
この値付けの背景にあるのは、インフレが原油だけでなくなったという見方です。値動きの荒いエネルギーと食品を除いたコアPCE物価は、5月分で前年比3.4%まで上がりました。2023年10月以来の高さです。半導体・メモリーなどAI関連品目の値上がりが効いているとの指摘もあります[3]。原油が下がっても残りの火は消えていないという考えです。6月の経済見通しでは金利の点を出した18人のうち9人が年内の利上げを見込みました。据え置きが8人・利下げが1人です[7]。
Fed内の声も具体的になりました。ダラス連銀のローガン総裁は「インフレは高い水準にあまりに長くとどまり、軌道に戻る様子がない」と述べています。クリーブランド連銀のハマック総裁も「物価を抑える行動が必要だという企業の声を、就任以来初めて聞いている」と明かしています。いずれも直接的です。市場関係者の間では今回この2人が利上げを主張して反対票を投じるとの予想が出ています[8]。ウォーシュFRB議長はこうした割れを「よい家族げんか」と呼んでいます[8]。米系大手の一つは7月こそ据え置きでも9月・10月・12月と3回の利上げを予想しています[9]。実際CME FedWatchの集計では、9月の会合までに1回以上の利上げが起きる確率が8割前後に達します(7月27日時点)[10]。
据え置きとみる側の見え方
一方の据え置き予想には議長自身の枠組みが裏付けとなります。ウォーシュ議長は供給要因の物価上昇を金利で追わない考えを示してきました。就任以来その姿勢は一貫しています[9]。9月からの利上げを予想するこの大手でさえ7月は据え置きとみています。見送ればインフレ対応への信認が揺らぎます。かといって実行すれば自らの枠組みに反する板挟みです[9]。割れが表面化する前の6月の投票は12対0の全会一致でした[12]。原油が87ドル台へ戻ったことは、供給ショックだからこそ利上げが要るという利上げ派の説明の前提を弱めます。
もっと先を見る予測もあります。別の米系大手は雇用の強さが続かないと見て年内の利下げ再開を予想してきました。強めの雇用統計が出るたび各社が利下げ予想を取り下げるなかで、この大手は数少ない利下げ派だと6月に伝えられています[11]。市場の値付けと当局者の発言は割れたままです。金融機関の予想も方向そのものが一致しません。
私の意見
手がかりは27日の値動きにあります。原油が約8%下げた日でも膨らんだ織り込みの4分の3以上が残りました。この数字は原油の値段だけを映す鏡ではありません。値付けされているのは、「Fedはインフレを耐えられるのか」という信認への保険料に近いと考えます。