最高値から28%安となった金は終わりの始まりか押し目か
金は1月下旬の史上最高値・約$5,590から約28%下落し、13年ぶりの最悪四半期に。急落は強気相場の終わりの始まりか、長い上昇の押し目か。事実と両論を同じ重さで並べます。
「金には、たいした使い道もなければ、何かを生み出す力もない。」ウォーレン・バフェットが2011年度のバークシャー・ハサウェイ株主への手紙(2012年公表)に記した一節です。当時、金は史上最高値圏にありました。
あの手紙から14年、金はさらに買われ、一時は当時のおよそ3倍の高値まで駆け上がったのち、また大きく値を崩しました。バフェット氏が「使い道もなければ何も生まない」と切り捨てた資産に、これだけの人とお金が振り回され続けているというのも、それはそれで面白いところです。
今日のトピック
$3,959。6月24日、ドル建てスポット金が日中に付けた安値です。この日、金は2025年11月以来はじめて$4,000を割り込み、以後は$4,000前後で値を探る展開が続いています(7月2日時点で約$4,050/oz)[1]。半年前の1月28〜29日には史上最高値・約$5,590/ozをつけていた金が、その高値から現値ベースで約28%、6月の安値ベースでは約29%まで水準を切り下げたことになります[1][2][3]。
第2四半期(4〜6月)だけで見ても下落率は約16%、2013年第2四半期以来・約13年ぶりの下げ幅の四半期になりました。2024年以降でははじめての四半期マイナスでもあります[4]。半年前まで「止まらない上昇」とも語られていた資産が、これほどの速さで水準を切り下げたこと自体が、まず目を引く落差。
この下げを、長い上昇相場のなかの一調整と見るか、それとも潮目そのものが変わったサインと見るか。同じ数字が、立場によって正反対に解釈できる局面です。
6月単月の下落率は約-11〜12%(集計により差)で、こちらは2008年終盤以来の月間最大下落にあたります。四半期(-16%)と単月(-11〜12%)は計測期間が異なる数字で、報道の数字を読む際は取り違えに注意したいところです[5]。直近の史上最高値は2026年1月28〜29日、出所により$5,586〜$5,597と幅はありますが約$5,590/ozです。1月28日は史上最大級の1日ドル上昇幅を記録したとも報じられています[2]。この1月急騰の主因は、米イラン情勢ではなく、ドル指数が4年ぶり安値へ急落したことによる「代替資産」としての需要だったと報じられています[9]。その後ドルが反転して高くなったことが、今回の下落の一因になっています。
円建て(税込小売)で見ると景色は少し違います。7月2日時点で¥23,423/g、1月29日のピーク¥29,815/g(田中貴金属)から約-21%です。ドル建て(約-28%)より下落率が小さいのは、円安が緩衝しているためです[7]。ただしこれは為替の綱引き次第で、円高に振れれば緩衝は逆回転し、体感の下げはドル建てに近づきます。
「放棄」ではなく「ペース調整」という見方
世界金評議会の集計では、2026年第1四半期の中央銀行のネット購入は244トンと、前四半期・5年平均をいずれも上回りました。中銀は月次でばらつきがあっても連続して純購入を続けており、方向そのものは変わっていないといいます[15]。
世界の外貨準備に占めるドルの比率は、1999年の約71%から2024年には約58%へ長期で低下してきました(IMF集計)。制裁リスクを避ける動きもあり、新興国を中心に準備を金へ分散する流れは続くと米系運用大手はみています[16]。ある国では準備・輸入の積み増しが加速したとのデータもあり、その狙いを準備通貨の多様化と解釈する米系大手銀の分析もあります[17]。
世界金評議会は景気悪化・地政学ショック・利下げ期待の強まりが重なれば金は$4,500付近へ、条件次第では$5,000も、と年央見通しで示しています。米系運用大手も、金融政策のハト派化とドル安が重なれば実質利回りの低下という追い風になり得ると指摘します[18]。
米系大手銀は中銀需要・脱ドル・新規鉱山供給の構造的な不足を、長期で強気に見る根拠として挙げています[19]。世界の政府債務が総債務の記録的な約30%に達するなか、通貨価値の希薄化に対するヘッジとしての金需要も下支えになるといいます[20]。実際、6月下旬には金ETFに4月以来最大の週間資金流入があり、押し目買いの存在もうかがえます[22]。
「強さを売る」番になったという声
ドル指数は6月22日に100.58と2025年5月以来の高値をつけ、続く6月24日には101.6付近までさらに上昇しました[10]。6月のFOMCでは2026年の政策金利見通し(中央値)が3.4%から3.8%へ引き上げられ、利下げバイアスが利上げバイアスへ反転しています[10]。市場が織り込む9月の利上げ確率は執筆時点で約65〜70%とされますが(集計ツールで差があります)、7月2日発表の米雇用統計しだいで大きく振れます[8]。
無利回りの金は、名目金利ではなく実質利回りに反応します。実質利回りの上昇は保有の機会費用を高める方向に働きます[24]。加えて、6月17日に署名された米イランの暫定枠組みで原油が急落し、安全資産としての金の妙味が相殺されたとも報じられています[11]。
第2四半期の金ETFは4週連続で流出し、6月には約76億ドルの資金が流出しました[12]。中央銀行の買いも月次では過去12か月平均を下回る局面があり、勢いの一服が意識されました。第1四半期には一部の中銀で売却の報道もあり、「幅広い中銀売り」への懸念を呼びました[13]。
欧州系運用会社のコモディティ責任者は、上昇を維持できないこと自体が脆いセンチメントの表れであり、トレーダーは弱さを買うのではなく強さを売っている、過去数年から顕著な変化だと述べたと報じられています[14]。下値の目安として、世界金評議会の年央見通しは調整シナリオに基準値から-5〜-15%(約$3,500〜3,900)のレンジを置いています[23]。
強気にも弱気にも、それぞれ裏付けとなる数字があります。まだ、どちらの物語も崩れてはいません。
私の意見
$4,000という節目は、崩壊ラインというより綱引きの場という見方があります。米系ストラテジストはこの水準を主要な攻防ラインと位置づけ、買い手と売り手が拮抗しているとみています[21]。世界金評議会の年央見通しも、下期を基準値(約$4,100)に対して-15%〜+20%のレンジで描いています(中立なら±5%、調整シナリオなら約$3,500〜3,900、上振れなら$4,500〜5,000程度)[23]。強気も弱気も、出発点はほぼ同じ$4,000近辺。