2026.08.06

格付け会社は「過小評価していた」と認めた|AIクレジットの審判

格付けの審判が始まった途端、審判の物差しが届きにくい場所へ信用が編み替えられ始めました。SPV・残価保証・家賃保証・債券化。AIの債務の「最後に誰が払うのか」を確かめます。

格付け会社は「過小評価していた」と認めた|AIクレジットの審判
Photo by William Warby on Unsplash

第一は人格だ。金より、ほかの何より先に来る。私が信用しない人間は、キリスト教世界のすべての債券を積まれても、私から金を引き出せない。(J.P.モルガン、1912年 米下院プジョー委員会証言より)

1912年12月、ワシントンの公聴会で75歳のJ.P.モルガンが答えた言葉です。商業信用の第一の基礎は金か資産か。そう問われての答えでした。信用は担保より先に、相手が見えているかどうかで決まる。それから113年がたちました。今夏、信用の値付けを職業にする格付け会社が「投資の規模を過小評価していた」と自ら認めています。AIをめぐる債務の積み上がりを前にしての告白でした。見えていなかったのは投資の規模だけだったのか。今日はAIクレジットに下り始めた審判と、その物差しからはみ出していく新しい仕組みを確かめます。

今日の短信

明日8月7日は、これまでの号の答え合わせが一日に重なります。

  • 財務省が19時に4〜6月期の為替介入の日次内訳を公表。四半期ごとの詳細は今回が初[1]
  • 総務省が16時にCPI基準改定の遡及改定値を公表。利上げの根拠となったインフレ率が書き換わるか。解説04の観察点[2]
  • 米国が7月分の雇用統計を発表。9月のFOMCに向けた織り込みの出発点[3]

今日のトピック

7月9日、米格付け大手S&Pグローバル・レーティングはOracleの長期格付けをBBBからBBB-へ引き下げました。BBB-は投資適格の最下層にあたります。「投機的」まであと1段の位置です[4]

根拠に挙がった数字は並外れています。2027年度のフリーキャッシュフローの赤字は約420億ドルへ広がる見通しです。設備投資計画はS&Pの従来想定600億ドルから900億〜950億ドルへ膨らみました。受注残(RPO)6,380億ドルの約半分が一社(OpenAI)に集中しています[4]

S&Pは格付け根拠の中で告白しました。「AI事業拡大に必要な投資の規模を過小評価していたと今は認識している」(we underestimated)[5]。審判が自身の見立ての誤りを認めた形です。

興味深いのは3社の判定が割れたことです。S&Pは格下げ。Moody'sは1段上のBaa2でネガティブ見通しを維持しました。Fitchは据え置きで「契約期間内に投資は回収できる」と評価しています[6]。同じ会社の同じ数字を見ているのに、信用の専門家の結論はそろいません。3方向に分かれました。

Moody'sは7月下旬、対象を広げて警告を出しました。対象はハイパースケーラー6社(Microsoft・Amazon・Alphabet・Meta・Oracle・CoreWeave)です。直接債務の残高は合計で約4,600億ドルにのぼります。データセンターのリース契約のコミットメントは約1.2兆ドルへ膨らんでいます[7]

リースの中身を掘ると、もう一つの数字が出てきます。Reutersの集計では大手5社(先の6社からCoreWeaveを除く)が「まだ始まっていないリース」に約1兆900億ドルを約束していました。1ドル157円換算で約171兆円です。すでに計上済みのリース債務2,850億ドルのほぼ4倍にあたります[8]

Oracle単体では状況がさらに極端です。未開始のコミットメント2,600億ドルは計上済みの378.9億ドルの7倍近くにのぼります[8]

格付けの物差しは決算書に載った債務しか測りません。これから載る予定の約束はその物差しの目盛りの外で積み上がっています。

「まだ健全だ」の側

強気側も一枚岩ではありません。バランスシートの強さを根拠にする声と、保証の仕組みが機能している事実を根拠にする声の二つに分かれます。

バランスシート基礎派が持ち出すのは警告を出したMoody's自身の評価です。Microsoft・Alphabet・Amazon・Metaの4社は「世界で最も強い企業バランスシートの一角」とされました。目先の格下げリスクは小さいという評価です[7]。稼ぐ力も落ちていません。受注残と長期契約が投資を裏打ちしているというFitchの見方もこの系統です[6]

市場の窓もまだ閉じていません。米投資適格社債の7月発行は約1,320億ドルの高水準で、主役はAI投資の資金を集める大手テックでした[9]。7月27日にはMetaと米系大手運用会社が組んだテキサス州エルパソのデータセンター合弁が債券約125億ドルを発行しました。A格級の格付け(S&P基準でA+)を得て国債+287.5bpで消化されています[18]

信用補完派が根拠にするのは値段です。GoogleのTPU(AI半導体)でデータセンターを建てる事業者はGoogleの保証があれば年7.1%で資金を調達できます。同等の保証がないNvidia系は9.3%です。FTの調査報道が算定した差は2.2ポイントでした[10]

保証は紙の上の約束ではありません。現実の調達コストを下げる装置として機能しています。強気側から見ればこれは信用の仕組みが正常に値付けされている証拠になります。

「値段は先に動いた」の側

弱気側の関心も一枚岩ではありません。いま付いている値段を重く見るか。値段すら付いていない部分を問題にするか。この二つで分かれます。

値段の動きから見ます。Reutersの分析では2026年に発行されたハイパースケーラー債91本のうち78本が7月末時点で発行時より高い利回り(安い価格)で取引されていました。率にして約86%にあたります。中央値では約22bp(1bp=0.01%)上昇しました[11]

No.014で「投資家の慎重さの温度計」と呼んだ新発債の上乗せ幅も同じ向きです。中央値で2025年の2.25bpから2026年は12bpへ、5倍を超えました[11]

7月のAmazonの250億ドル起債では応札が最大620億ドルから最終約410億ドルへ細りました。倍率にして約1.6倍です[12]。OracleのCDS(債務不履行保険料)はS&Pの格下げより3か月以上前の3月末に198bpを超えていました。集計上の過去最広水準を付けたと伝えられています[19]

値段は格付けより先に動きました。

格付けに映らない部分を問題にする側は「未開始リース1兆900億ドル」に加えて投資と収益の距離を挙げます。独系保険グループの調査部門はAI設備投資と売上の乖離(かいり)を46%と推計しました。2001年のテレコムバブル期の32%をすでに上回った水準です[13]

2000年前後の通信業界は記録的な社債を積み上げた末に2002年のWorldCom破産で幕を閉じました。通信株の時価総額は2兆ドル超が消えています[14]

当時と違い今の借り手は世界最強級の現金創出力を持ちます。この反論は当たっています。ただ、投資が売上より速く走っているという一点は当時と変わりません。

周辺の借り手には押し返しが具体的な条件になって現れました。AI計算力を貸すCoreWeaveがAnthropicなどとの契約を担保に組んだ26億ドルのローンです。投資家の要求で金利の上乗せは当初の話から最大125bp引き上げられました。SOFR(米ドル翌日物指標金利)+550bp・額面100に対し97の割引発行で7月末に決着しています[20]

私の意見

審判の本丸は格下げそのものではないと私はみています。見るべきは審判が始まった途端に信用が編み替えられ始めたことです。編み替えの先は審判の物差しが届きにくい場所でした。

続きは、私の意見と数字です。

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