決算は過去最高、株は連日の急落|日米韓の半導体で何が売られたのか
好決算は防波堤にならない。株価は物語を織り込み、契約価格は実需を映す。二つの値段の乖離がどちらへ収斂するか、7月29日のSKハイニックス決算説明から答え合わせが始まります。
根拠なき熱狂が資産価値を不当に押し上げているかどうかを、われわれはどうすれば知ることができるのか。(アラン・グリーンスパン、1996年12月5日の講演より)
30年前にFRB議長が発したこの問いへの答えはいまも出ていません。熱狂が根拠を失った瞬間は、事後にしか確定できません。ただ市場がその問いを自問し始めた瞬間なら値動きに現れます。今週の日米韓の半導体株に起きたのがそれでした。
今日のトピック
時系列で並べます。始まりは米国時間の7月15日。フィラデルフィア半導体指数(SOX)が4%を超えて下落し、構成30銘柄がすべて下げました。メモリー大手マイクロンも大きく下げて時価総額1兆ドルの節目を割り込みました[6]。
翌16日にこの下げがアジアへ波及します。韓国のKOSPIは寄り付きから4.45%安で始まり、午前9時10分には先物の売りを規制する「サイドカー」が発動します。終値は6,820.60で前日比6.37%の下落です[1]。サムスン電子8.77%安・SKハイニックス11.53%安でした[3]。韓国株の急落はこの週2度目です。13日にも中東情勢と半導体業績への懸念からKOSPIが8.95%下げ、このときは取引を止めるサーキットブレーカーまで発動しました[2]。
同じ16日に韓国銀行が政策金利を2.50%から2.75%へ引き上げました。3年半ぶりの利上げで、金融通貨委員7名の全会一致でした。背景は6月の消費者物価が前年比3.2%と目標の2%を4か月連続で上回ったことです[4]。ロイターの事前調査ではエコノミスト37人中36人がこの利上げを予想しており、決定そのものはほぼ織り込み済みでした[5]。ウォンは対ドルで一時1,480ウォン台まで買われました[4]。
そして日本です。NAND大手のキオクシアは7月2日にMetaが余剰AI計算力の外販を検討しているというBloomberg報道を受けて一時14.9%下げました[7]。その後16日に15.0%安の62,110円。17日には16.1%安の52,110円と連日の急落になります[8]。
見逃せないのは同社の2026年3月期決算です。売上高2兆3,376億円(前期比37%増)・営業利益8,703億円(同92.7%増)と8期ぶりの最高水準でした[9]。過去最高の決算を出した会社の株が業績の悪化ではなく連日2桁の率で売られています。
17日は日経平均も約4%安(2,694円安)の64,141円となりました。東京エレクトロン8.17%安・レーザーテック9.66%安・アドバンテスト7.20%安が主導します[10]。
「調整にすぎない」とみる立場
下げの割に実需のデータは崩れていません。これが落ち着いた側の論拠です。調査会社TrendForceの直近レポートを見ます。NANDの現物価格は下落が続き、DRAMは横ばい圏です。大口取引の契約価格については2026年7〜9月期にDRAMが前期比13〜18%・NANDが10〜15%の上昇という強気の予想を維持しています[11]。値段の現場では少なくともまだ需要の蒸発は観測されていません。
売り材料も多くはまだ確定した事実ではありません。SKハイニックスの4〜6月期決算はまだ出ておらず、決算説明の電話会見は7月29日の予定です。16日時点で会社側に新しい事実はなく、あったのはアナリストの予想下方修正と前夜の米国株安でした[3]。キオクシアに至っては直近の確定事実が過去最高決算です[9]。
数少ない確定した個別材料は17日に同社へ出た米特許訴訟の約2.29億ドルの賠償評決です。ただ同日は日経平均全体が約4%安。半導体主力が軒並み急落しており個別材料だけで説明のつく下げ方ではありませんでした[10]。BoKの利上げも37人中36人が予想した既定路線です。これを暴落の主犯とみるのは筋が悪いといえます。恐怖が先行しただけで数字が追認しなければ株価は戻ります。これが落ち着いた側の見立てです[5]。
「物語の転換」を警戒する立場
慎重な側が見ているのは今期の数字ではなくAI投資という物語の前提です。トリガーとされる報道はどれもその前提に触れています。
Metaが余剰AI計算力を外に売るというBloomberg報道は裏を返せば「自社で使い切れない計算力がある」という意味です。AIインフラの需給の見立て直しを迫りました[12]。米国ではデータセンター建設計画の延期・中止が相次いでいるとの指摘も報じられています[3]。
供給側にも新しい材料が出ました。中国のDRAM大手CXMT(長鑫存儲)が上海市場で約85.5億ドルを調達するIPOに踏み切ります。7月27日に上場予定です[13]。
同社は2025年に世界DRAM市場の約7.7%を握る4位で、2026年1〜3月期の売上は前年同期比719%増と報じられています。調達資金が増産に向かえばメモリー市況の寡占構造が変わりえます。この観測がメモリー株への集中的な売りにつながったと報じられています[3]。
需要の物語(AI投資は無限に続く)と供給の物語(作れるのは数社だけ)の両方へ同じ週に疑問符が付いた形です。
私の意見
まずこの急落が教科書どおりの実演だという点から確かめます。価格を動かすのはニュースと予想の差です。実績ではありません(解説07)。キオクシアの過去最高決算は、発表時点でとうに価格へ織り込まれていました。いま売られているのは今期の利益ではありません。「AI投資は当分減速しない」という株価の前提に置かれていた物語のほうです。だから決算がどれだけ良くても防波堤になりません。好決算でも売られるという言い方は当たりません。好決算は最初から論点ではなかったのだと思います。