決算は過去最高、株は連日の急落|日米韓の半導体で何が売られたのか
好決算は防波堤にならない。株価は物語を織り込み、契約価格は実需を映す。二つの値段の乖離がどちらへ収斂するか、7月22日のSKハイニックス決算から答え合わせが始まります。
根拠なき熱狂が資産価値を不当に押し上げているかどうかを、われわれはどうすれば知ることができるのか。(アラン・グリーンスパン、1996年12月5日の講演より)
30年前にFRB議長が発した問いは、いまも答えが出ていません。熱狂が根拠を失った瞬間は、あとから振り返ることでしか確定できません。ただ、市場がその問いを自問し始めた瞬間なら、値動きに現れます。今週の日米韓の半導体株に起きたのは、それでした。
今日のトピック
時系列で並べます。始まりは米国時間の7月15日でした。フィラデルフィア半導体指数(SOX)が4%を超えて下落し、構成30銘柄がすべて下げました。メモリー大手マイクロンも大きく下げ、時価総額1兆ドルの節目を割り込みました[6]。
翌16日、この下げがアジアに波及します。韓国のKOSPIは寄り付きから4.45%安で始まり、午前9時10分に先物の売りが規制される「サイドカー」が発動。終値は6,820.60と、前日比6.37%の下落でした[1]。サムスン電子は8.77%安、SKハイニックスは11.53%安です[3]。実は韓国株の急落はこの週2度目で、13日にも中東情勢と半導体業績への懸念からKOSPIが8.95%下げ、こちらは取引を止めるサーキットブレーカーまで発動していました[2]。
同じ16日、韓国銀行は政策金利を2.50%から2.75%へ引き上げました。3年半ぶりの利上げで、金融通貨委員7名の全会一致。6月の消費者物価が前年比3.2%と目標の2%を4か月連続で上回ったことが背景です[4]。ロイターの事前調査ではエコノミスト37人中36人がこの利上げを予想しており、決定そのものはほぼ織り込まれていました[5]。ウォンは対ドルで一時1,480ウォン台半ばまで買われました[4]。
そして日本です。NAND大手のキオクシアは、7月2日にMetaが余剰AI計算力の外販を検討している、というBloomberg報道を受けて一時14.9%下げたのを皮切りに[7]、16日に15.0%安の62,110円、17日にはさらに16.1%安の52,110円と、連日の急落になりました[8]。見逃せないのは、同社の2026年3月期決算が売上高2兆3,376億円(前期比37%増)・営業利益8,703億円(同92.7%増)と8期ぶりの最高水準だったことです[9]。過去最高の決算を出した会社の株が、業績の悪化ではなく、連日2桁の率で売られています。17日は日経平均も約4%安(2,694円安)の64,141円となり、東京エレクトロン8.17%安、レーザーテック9.66%安、アドバンテスト7.20%安と、半導体の主力が軒並み下げを主導しました[10]。
「調整にすぎない」とみる立場
下げの割に、実需のデータは崩れていません。これが落ち着いた側の論拠です。調査会社TrendForceの直近レポートでは、メモリーの現物価格はNANDこそ下落が続くものの、DRAMは横ばい圏。そして大口取引の契約価格については、2026年7〜9月期にDRAMが前期比13〜18%、NANDが10〜15%の上昇という強気の予想を維持しています[11]。値段の現場では、少なくともまだ、需要の蒸発は観測されていません。
売り材料も、その多くはまだ確定した事実ではありません。SKハイニックスの4〜6月期決算はまだ出ておらず(決算説明の電話会見は7月29日の予定)、16日時点で会社側の新しい事実はなく、あったのはアナリストの予想下方修正と、前夜の米国株安です[3]。キオクシアに至っては、直近の確定事実は過去最高決算でした[9]。数少ない確定した個別材料は、17日に同社へ出た米特許訴訟の約2.29億ドルの賠償評決ですが[8]、同日は日経平均全体が約4%安で半導体主力が軒並み急落しており、個別材料だけで説明のつく下げ方ではありませんでした[10]。BoKの利上げも37人中36人が予想した既定路線で[5]、これを暴落の主犯とみるのは筋が悪いといえます。恐怖が先行しただけで、数字が追認しなければ株価は戻る、という見立てです。
「物語の転換」を警戒する立場
慎重な側が見ているのは、今期の数字ではなく、AI投資という物語の前提です。トリガーとされる報道はどれも、その前提に触れています。Metaが余剰AI計算力を外に売るというBloomberg報道[12]は、裏を返せば「自社で使い切れない計算力がある」ことを意味し、AIインフラの需給の見立て直しを迫りました。米国ではデータセンター建設計画の延期・中止が相次いでいるとの指摘も報じられています[3]。
供給側にも新しい材料が出ました。中国のDRAM大手CXMT(長鑫存儲)が上海市場で約85.5億ドルを調達するIPOに踏み切り、7月27日に上場予定です。同社は2025年に世界DRAM市場の約7.7%を握る4位で、2026年1〜3月期の売上は前年同期比719%増と報じられています[13]。調達資金が増産に向かえば、メモリー市況の寡占構造が変わりえます。この観測が、メモリー株への集中的な売りにつながったと報じられています[3]。需要の物語(AI投資は無限に続く)と供給の物語(作れるのは数社だけ)の両方に、同じ週に疑問符が付いた形です。
私の意見
まず、この急落が教科書どおりの実演だという点から確かめます。価格を動かすのはニュースと予想の差であり、実績ではありません(解説07)。キオクシアの過去最高決算は、発表時点でとうに価格に織り込まれていました。いま売られているのは今期の利益ではなく、「AI投資は当分減速しない」という、株価の前提に置かれていた物語のほうです。だから決算がどれだけ良くても防波堤になりません。好決算でも売られる、ではなく、好決算は最初から論点ではなかった、が正確だと思います。