Fedの年内見通しが利下げから利上げへ急反転
Fedは6月会合で金利を据え置く一方、メンバーの見通しは「年内利下げ」から「年内利上げ」へ転換しました。7月2日の米雇用統計を前に、タカ派・慎重派の両論と、次に見る指標を公開データで中立に整理します。
「中央銀行総裁になってから、大いに支離滅裂につぶやく術を身につけました。もし私の話が妙にはっきり聞こえたとしたら、あなたはきっと聞き間違えています。」1987年、当時のFRB議長アラン・グリーンスパン氏が上院委員会での証言で残した自虐です(Guardian Weekly、2005年11月4日号による引用)。
以来、Fedの言葉はわざと曇らせるものというのが、市場の共通理解になりました。何を言ったかより、何を言わなかったかに耳を澄ます。それがFedspeakとの付き合い方です。
今週、その作法が珍しく裏切られました。5月に就任したばかりの新議長、ケビン・ウォーシュ氏にとって初めての会合です。政策金利という「行動」は動きませんでした。ところが、Fedがもう一つ持っている言葉、将来の金利見通しを示すドットチャートのほうはめずらしくはっきり動いたのです。
今日のトピック
3.50〜3.75%。6月17日、Fed(米連邦準備制度)が据え置いた政策金利の水準です。採決は全員一致、12対0でした。声明は「インフレは依然として高止まりしている」と述べ、従来あった緩和方向を示す文言を削除しています[1]。
驚きは据え置きそのものではありません。Fedは2025年後半に利下げを進めた後、金利を据え置いてきました。FOMC参加者が示す2026年末の政策金利見通し(ドットチャート)の中央値は、3月の3.4%から6月には3.8%へ切り上がりました。3月時点でにじんでいた「年内の利下げ」の色は消え、代わりに「年内1回の利上げ」が顔を見せています[2]。政策そのものは動かず、その先の空気だけが反転しました。しかもこの会合は、5月22日に第17代議長へ就任したケビン・ウォーシュ氏にとって初めての会合でもありました[3][5]。
据え置きという結果と、方向感の反転という中身。この分かれ目に答えを出す最初の材料が、7月2日(木)発表の6月雇用統計です[6]。強い数字が出れば「引き締めは続く」の裏付けになり、弱い数字が出ればタカ派への転換そのものが試されます。このテーマは、noposiが最初に扱った円安の「日本側」(No.001)の裏返しにあたります。今回は太平洋の向こう、米国側から見ます。
ドットチャートの中身をもう少し見ます。2026年末の政策金利見通し(中央値)は3.8%、3月時点の3.4%から引き上げられました。現行水準(3.50〜3.75%)より高く、おおむね1回(約0.25%)の利上げを示唆する形です。見通しを示した18人の内訳は、9人が「少なくとも1回の利上げ」、8人が「据え置き」、1人が「利下げ」、ウォーシュ議長自身は自分の点を示していません[2]。
ウォーシュ氏は上院での54対45の承認を経て、5月22日に第17代議長として就任宣誓を行い[3][5]、FOMCも全会一致で議長に選出しました(前任のジェローム・パウエル氏は就任までの暫定議長を務め[4]、議長任期満了後も理事として残留しています[5])。金融引き締め寄りの声明とタカ派化したドットの下で迎えた、新議長の最初の会合。
6月分の雇用統計は、通常の「第1金曜」ではなく7月2日(木)に発表されます。7月4日(独立記念日)が土曜のため7月3日(金)が振替休日で市場が休場となり、発表が1日前倒しになるためです[6][18]。市場の予想はNFP(非農業部門雇用者数)が約11万人増[8]。失業率は直近3カ月連続の4.3%が続くかが焦点です。
直近の実績(5月分・6月5日公表)は底堅いものでした。NFPは17万2000人増で、市場予想(約8万人増)をすべてのエコノミスト予想ごと上回りました[7][19]。失業率は4.3%(3カ月連続)、平均時給は前年比+3.4%(4月の+3.6%から鈍化)、労働参加率は61.8%[7]。過去分も上方修正され、4月は17万9000人増、3月は21万4000人増、3〜5月の月平均は約18万8000人増にのぼります[7]。
物価も高止まりしています。5月のCPI(消費者物価指数)は総合+4.2%(約3年ぶりの高さ)、コア(食品・エネルギー除く)+2.9%[9]。Fedが最も重視するPCE価格指数(5月)は総合+4.1%、コア+3.4%と、2%目標を大きく上回っています。エネルギーは中東情勢を背景に上昇し、関税も物価を押し上げているとされます[9][15]。週次の新規失業保険申請は21.5万件(6月20日週)と低水準、求人件数(JOLTS・4月)は760万件に増加し、労働需要の強さを裏づけています[11]。
金利・為替は、米10年債利回りが約4.37〜4.38%、2年債が約4.11%[12]。ドル指数(DXY)は約101.2で、6月24日に約14カ月ぶりの高値(約101.8)を付けた後、やや低下しています[13]。市場もおおむね年内1回の利上げを織り込み、利下げ観測はほぼ消えました。一方で直近(6月29日時点)の試算では、目前の次回(7月)会合は据え置き優勢(据え置き約7割)です。年内の利上げは見込みつつ、急がない、という織り込みです[14]。
引き締めは、当面続くのか
強気の論者(タカ派)は、Fedが当面金融を引き締め気味に保つとみています。根拠は労働市場の底堅さと物価の高止まりです。5月の雇用は予想を上回る17万2000人増で[7]、失業保険申請は21.5万件と低く、求人も760万件へ増加しています[11]。需要は強いまま、という見立てです。物価もCPI総合+4.2%[9]、Fed重視のコアPCE+3.4%[10]と、目標を大きく上回ります。実際、Fed自身のドットチャートも「利下げ」を取り下げ「利上げ」へ傾き、18人中9人が「少なくとも1回の利上げ」を示しています[2]。米系の運用大手の中には、公開リポートで2026年の利下げ予想を取り下げ、利下げ局面を2027年へ後ろ倒しした例もあります[16]。金利・為替にも根拠は表れています。米10年債利回りは約4.37〜4.38%、2年債は約4.11%と底堅く[12]、ドル指数(DXY)も6月24日に約14カ月ぶりの高値(約101.8)を付けたあと、なお約101.2で推移しています[13]。金利が高いまま続けば、内外金利差は開きやすく、ドルは支えられます。ドル高は、円から見れば円安方向の力になります。前号で見た「日本側」の構図と合わせれば、金利差はなお縮みにくいまま。
引き締めは、行き過ぎていないか
弱気の論者(慎重派)は、いまの物価高を理由に引き締めを強めると行き過ぎるリスクがあるとみています。ポイントは物価高の正体です。足元の押し上げ役はエネルギーと関税、つまり供給側の要因とされます[9][15]。サンフランシスコ連銀の研究では、関税がコアPCE物価に約0.8ポイント寄与していると試算されており、供給要因による物価高は、需要を冷やす利上げでは抑えにくく、むしろ景気だけを冷やしかねないという指摘につながります[15]。労働市場にも陰りの芽はあり、継続受給者数は緩やかに増えています[11]。コアCPI(+2.9%)がコアPCE(+3.4%)を下回る逆転も起きており[9][10]、供給要因中心の物価高は見通しにくいところです。加えて、AI(人工知能)による生産性向上が中長期にはむしろ物価を押し下げうるとの見方もあり、ウォーシュ新議長自身がこの傾向に近いとされます[17]。米系の運用大手の中には、Fedは2026年を通じて据え置き、利下げは2027年とみる慎重な標準シナリオを示すところもあります[17]。市場自身も、年内1回の利上げを織り込みつつ、目前の7月会合については据え置き優勢(約7割)で急いでいません[14]。この立場からは、ドル高も「行き過ぎた引き締め観測」が一服すれば反転しうる、とみています。
余談。新体制のつかみにくさも、この号の裏テーマです。ウォーシュ新議長は声明やドットでは引き締め方向を示す一方[1][2]、AIを物価の押し下げ要因とみる発信もあるとされ[17]、ドットチャートに自身の点を出していないこともあり(だから18人)[2]、市場もまだ発信の癖を測りかねています。加えて、雇用統計は1カ月の数字が大きく改定される統計でもあります。実際、4月は当初11万5000人増から17万9000人増へ、6万4000人も上方修正されました[7]。7月2日の1本だけで方向を決めつけるのは、まだ早いところです。
私の意見
据え置きという「行動」と、ドット3.4%から3.8%への切り上がりという「言葉」。今回動いたのは、行動ではなく言葉のほうです。しかも、その言葉に自分の点を書き込んでいないのが、言い出しっぺであるはずの新議長本人だという点が気になります[2]。